2022年 08月 25日
ムカデの台
尼崎台が気になり出しました。
蜈蚣(ムカデ)の文様があると聞いて、今の感覚では「何?
気持ち悪い」というのが一般的感覚と思います。
まず、私がそうです。
ムカデは怪奇な生き物として、此方は嫌い怖れます。千年近く
前の例としても、俵藤汰の百足退治といった伝説もあります。
その一方で、乾燥して強壮剤としたり、切り傷などに対する
民間の薬だ、ということです。
また、毘沙門天の眷属としての信仰もあるそうです。
そのイメージは、「攻撃的な生き物」、「後へ戻らない(俗信?)」、
足が多いので「兵が多い(大軍)」となります。
となると、武士に好まれ、武具のデザインに取り入れられます。
(「後退しない」のはトンボが好まれたのと同じ)。
同様に、商人にとっても、「客足が多い」、「他店に負けない」
「お足=お金」といった意味でとらえられ、デザインに使われた
とも聞きます。
となると、茶器にムカデのデザインは、何ら不自然なことはない
ことになります。(とはいえやはり、私の趣味には合いませんが。)
処で、注意を要する点があります。
以上は、殆どが日本での話です。
一方、ムカデ文様の尼崎台は将来品です。
あちらの国、清では、漢文明では、ムカデをどう見ていたのか、
ということになります。つまり、かの国で実際に意匠に取り入れた
理由は何か、という問題です。
私見で先ず思うのは、日本と同じような考えなのではないかと
いうことです。
但し、全く別の視点があるのではないかとも思えます。
これは、私の全くの思い付きの仮説ですが、蜈蚣あるいは百足と
いう「漢字」から派生する意味あいです。
類推の根拠の例としては、蝙蝠です。
話しが逸脱し、長くなるばかりで恐縮です :
蝙蝠(コウモリ)は、「蝠」の字が「福」と同じ発音なので、かの
国では福を呼ぶ生き物と見なされました。或いは、「偏福」(福が
集まっている)と発音が同じため、同じ意味に読み替えられたと
聞きます。確かに、日本語で音読みすると、どちらも「ヘンフク
(ヘンプク?)」ですね。
因みに、長崎のカステラの福砂屋のマークが蝙蝠。長崎といえば、
オランダ貿易、出島が有名です。しかし、江戸期にオランダ以外に
清、朝鮮との交易があったので、「当然長崎には漢字文化が他の地域と
違った意味で根付いていた(だから、福砂屋は蝙蝠を商標にした)」
と私は考えていました。
ところで、今回、福砂屋の㏋をみると、マークは維新前からではなく
明治になってからの制定とのことです。
蝙蝠の話しはさておき、蜈蚣が漢語でどう発音し、同じ発音の単語に
何があるのか、私には全く別世界のお話しなので、詳しい方に教えを
乞いたいです。
以下、余談です。
1)赤城神社ではムカデが神使となっているそうで、社殿の
彫刻が素敵で、興味深いです。
2)長唄「元禄風花見踊り」に『百足屋が』という一節があり、
気になっていたことを思い出しました。浅川玉兎「名曲要説」を
開いてみましたが、「紐を売る店」とそっけない注釈でした。
3)武州川越に百足屋という名の元商家があり、現在は「築
380年の『田口家住宅』を再生・利活用した文化体験施設」
だそうです。「糸・組紐や鰹節を取り扱う問屋」だったそうで、
浅川玉兎氏の注釈のとおりでもあります。
写真で拝見すると、”mucadeya”とあり、kではなくcである
ことが私には全く理解できません。
最期に、台の現物ですが、淡交社の原色茶道大辞典に写真が
「尼崎唐物天目台」としてカラーで掲載されています。
残念ながら横からの写真なので、ムカデ文様を目にすることが
出来ません。残念。
とりとめの無いお喋り失礼しました。
<R5.10.2>文意を変えず文言補足
<R6.8.11>文意を変えず文言補足
・私にとって蝙蝠はやはり怖い不気味な生き物であり、幸福をもた
らす感覚は無かったので、かの国での扱いを知った時は驚きました。
子供の頃の夕方、公園から引き上げる黄昏時に、とっちに向かって
どう飛ぶか予測もつかず、突然低空に来るかもしれない恐怖を、
フト思い出しました。
今、町場でどの程度生息しているのでしょうか。
・漢字「百足」という書き方はかの国でも使われているか否かも
気になってきました。

